『雲雀』表記:25雲雀 『恭弥』表記:15雲雀
洋酒は飲まない。そう聞いていたし、納得もしていた。
一面に畳が敷き詰められ、背の低い家具で統一されたこの部屋にそぐわないグラスが一つ。
白色の液体を揺らして、雲雀は離れて座る恭弥を眺める。
対する恭弥は湯飲みに注いだ日本茶を何も言わずに飲み、雲雀から意図的に視線を逸らした。
「貴方が日本酒以外を口にしたのは初めて見た」
「…だろうね、僕も初めてだ」
「気でも触れたの?」
「まさか」
楽しそうに喉をふるわせる雲雀に、恭弥は逸らしていた視線を彼へと向ける。
それこそが目的だったと言うように、合わさった視線に満足そうに笑みを深めた雲雀に、思わず渋面を作るのは何時もの事だ。
掌で転がされているという自覚はある。
良い様に扱われているのは十年という月日と経験の差だという事を自覚しているからこそ、恭弥は埋めようのないソレに眉を顰める。
「…それで、どうして?」
「少しは頭を働かせなよ」
「その結果だと思えないの?」
「やっぱりまだまだだね、15歳なんて」
苦虫を咬み潰したような、寧ろそれ以上だと言わんばかりに口を曲げる恭弥に、遂に雲雀が吹き出す。
雲雀相手に虚勢を張るのも面倒に感じるようになったのは最近のことではない。
元々、年齢が違うとは言え同じ『雲雀恭弥』なのだから、と単純な理由を口にしたのは二人が二回目に逢ったときだった。
その時に雲雀が珍しく幼い顔を曝して驚いたせいで、今のような関係が出来上がっているのだけれども。
「ふふ、気になるなら調べてごらん」
「は?」
「だから、これが何か。そうしたら応えは出てくるよ」
くるりと手の内で転がしたグラスを恭弥によく見えるように眼前に曝す。
鼻につく甘い香りに眉を顰め、恭弥はグラスと持ち主の顔へと視線を投げてはまたグラスを注視した。
甘い、チョコレートにも似た匂いと違う何か。
考え込めばくらりと頭が揺れる錯覚が起こるのはアルコールが入っているからだと眉を寄せて恭弥はグラスを遠ざけた。
「そうだな…、一時間あげる。それまでに応えを出しなよ」
「一時間も要らないよ」
「解らないよ? 酒なんて君が知らない事ばかりだろうしね」
楽しそうに口角を上げては、恭弥へと寄せていたグラスを一気に煽る。
置き時計へと視線をずらし、意味ありげに恭弥を見遣れば、それが開始の合図。
不服に思いながらも調べに出た恭弥の後ろ姿に雲雀が笑みを深めたのは知るよしも無い。
それから何分経ったのか、気怠げに脇息に凭れながら新しいグラスをゆっくりと回して居た雲雀の元へ珍しく騒がしい足音を立てて恭弥が戻ってくる。
どうしたの、そう雲雀が口にするより先に、目の前に膝を突いた恭弥が強引にその唇を奪った。
「…っふ、」
「…ねえ、初めから口で言いなよ」
今にも唇が触れる距離で囁く恭弥の頬は赤い。
その表情だけでも、恭弥が応えにたどり着けたことは一目瞭然で。
視線だけを動かして置き時計を見遣れば指定した時間よりも大分早く応えにたどり着いていて、雲雀は緩く口角を持ち上げた。
「その様子じゃ、応えにたどり着けたみたいだね」
「見くびらないで」
「そんなことしてないさ。実力試し、よくやるだろ?」
「むかつくよ、それ」
間近の会話に、お互いの掛かる息がくすぐったく感じるにも関わらず、それ以上の距離を開けようとはしない。
雲雀の吐く息は甘く、けれど香るアルコールに恭弥は眉を顰めてグラスを取り上げてた。
少し離れた座卓へとグラスを置き、未だに雲雀が凭れている脇息を避けて押し倒す。
雲雀も特に抵抗する訳でも無く、楽しそうに喉を震わせて恭弥越しにぼんやりと浮かぶ天井を見た。
「覚悟しなよね」
「それは君だろ? …ほら、僕を満足させてみせなよ」
首に手を回し引き寄せ、吐息同然の声で囁く雲雀に恭弥の背筋が震える。
それなら、態々遠回しに誘わないでよ。恭弥はその言葉を飲み込むように、雲雀へと深い口付けを仕掛けた。
ひばひばの日記念
作中のカクテルはフロストバイトでした