取り壊すことはもう随分と前から決まっていた。
今まで執り行われなかったのは雲雀の権力をもってそれを先延ばしにし続けていただけだ。
それが雲雀自身、ただの執着心であることは理解していただろう。
けれど、可能な限りは引き延ばしておきたかったのだと今の雲雀が嗤う。
「ほう、君にしては珍しい類いの話だ」
「そうかもね」
「僕にしても好都合ですけどね」
また君を跪かせてせてあげられます。
そう続けて口元に笑みを貼り付ける骸に、雲雀は一瞥をくれるだけでトンファーが出てくることはない。
骸の一言にいちいち咬み着いていたのは成人する少し前までだ。
何が雲雀の中で起こったのかは本人以外知るよしもない。
その事に気付いた沢田を初めとする骸と雲雀の関係を知るものは驚きを隠せるわけもなく、無意味に動揺したものだ。
骸はそんなこと欠片も興味を示さなかったが。
「丁度良い機会だと思ってね」
「それは一体どういう?」
「花見をしようか」
会話が繋がっていないと異を唱えることも出来ただろう。
けれど雲雀の言葉が意味することを推測できない骸ではない。
夏も過ぎ、秋へと季節の変わる今に行われる花見など一つしか思い浮かばないのだから、聞くほどのことでも無いと口を噤んだだけだ。
行き先を告げずとも、どちらともなく黒曜ヘルシーランドへと足を向ける。
ペースをあわせたり、道中会話することは一度も無い。
目的地が同じであるということは解っているのだ、わざわざ足並み揃えて行く必要も無い。
「クフフ、懐かしいですね、此処は」
「此処に住もうとする奴の気が知れないね」
「おや、結構便利なんですよ。風通しが良すぎるくらいの問題しかありませんでしたし」
「治安が悪くなるだけだ」
至極楽しそうに思い出す骸とは対照的に、雲雀は眉を寄せる。
ボウリング場を抜け、かつて一戦を交えた場へと出れば、気分が高揚するのは致し方ないといえよう。
「さて、ご所望の桜ですよ」
「…やっぱり綺麗だな、桜は」
「もう君がふらつかないのは寂しいですがね」
「よく言うよ」
軽口の応酬を繰り広げながら、それぞれの武器を取り出す。
獲物は何年経とうと変わることのないトンファーと三叉槍だ。
初めてこの場で武器を交えた時よりも苛烈を極めるのは、年数を経たからこそ。
花見と称した割りに、桜を観賞することなく武器を交える二人は至極楽しそうだ。
攻防は続き、周りの床やソファにも被害が及ぶ。
だからといって手を緩めることなく攻め込む雲雀に、骸は楽しげに口角を上げた。
「笑ってられるのも今のうちだよ」
「おやおや、どうでしょうねぇ?」
負けるつもりはない、そう言うようにトンファーに力を込める雲雀に、骸も負けじと三叉槍を強く押す。
こうも何年も引きずって決着を付けることに迷いはないのかと数年前に骸は雲雀に投げかけた事がある。
押し黙るとばかり思っていた雲雀は、意味が分からないというように眉を寄せると馬鹿じゃないのと吐き捨てると骸に殴りかかったものだ。
『君を打ち負かしたからと言ってそれで終わるとでも?』
自信たっぷりの雲雀の言葉に呆れて物も言えなかったのは骸の記憶に新しい。
雲雀自身が再び負けるとは思っても居ない。
勝つことだけを考えているからこそ、その先もしっかりと見据えているのだと雲雀は不適に口角を上げていた。
そこで骸が雲雀から興味を失うという考えは毛頭ないらしい。
確信しているのか、自意識過剰なのか。
どちらにせよ、それが雲雀らしいと骸は断言できるだろう。
だからこそ、骸の興味は尽きない。
暫く打ち合い、漸く終わりが見えた頃。
雲雀へと振った三叉槍はトンファーにより弾き飛ばされた。
からりと乾いた音を立てる三叉槍を再び手中に出現させるよりも早く、雲雀は骸の喉元へとトンファーと突きつけそのまま押し倒した。
「ほら、これで終わりだ」
「っは、満足ですか」
「うん、まぁ悪くは無いね」
呼吸を圧迫するトンファーに骸が僅かに眉を寄せる。
それを気にするでもなく、雲雀はトンファーを手放すと咬み付くようなキスを仕掛けた。
呼吸すら奪うそれは雲雀のキスの特徴といえる。
息を吸うことすら一手間。
それでも慣れというのは恐ろしいもので、今では骸も慣れたものだ。
「っは、それで、君はどうするつもりです」
「教えないよ」
「おや」
上機嫌に口角を上げる雲雀とは逆に、骸の口元には苦笑が浮かぶ。
逃げる算段を立てながら雲雀の下から抜けようとしても目敏く見つけられて阻まれる。
ネクタイを掴み、唇が触れるほどの近さまで顔を寄せると雲雀は骸の右瞼へとキスを落とした。
「さぁ、今度は君の番だ」
2012/09/09 邂逅記念日