ソファに深く腰掛けて眠るだけで済まそうとする悪癖を指摘すれば、目隠し代わりに乗せていた腕の隙間から薄青の瞳が向けられた。
だいたい、そんな浅い睡眠で体が持つ訳がないことぐらい承知だろうに。
畳み掛けてそう投げても、咬み潰す気のない欠伸だけが返ってくる。こういう時は、答える気つもりが一切無いと言うことが理解出来るほどには付き合いも長い。
「…此処で寝たら襲うよ」
「このけだもの」
「無防備に寝姿なんて曝すあなたが悪い」
「直ぐ欲情する君は悪くないの」
言葉の応酬も変わらない。
寧ろ、会った頃とは比べようも無いほどに増えてきている。
昔はそれこそ無視を決め込んでいたり、言葉が返ってきたとしても短い否定の言葉だけだった、と思う。
それだけ絆されてくれたのかと実感する事もあるけれど、それよりもただ単に慣れ、だろう。
お互いがお互いの空間に干渉することに違和感を覚えなくなった、というのも有る。
「…ほら、寝るならベッドに行きなよ」
「面倒だから、いい」
「…此処で今僕に襲われたくなかったら行け」
「………仕方ないな、」
心底面倒そうに起き上がったアラウディに内心溜息を吐くいたのは仕方ないこと。
嫌だなんて言っても大抵は口先だけだって知っているけれど。加減を見誤って後で手酷く叱られるのもなかなかに面倒だ。
大体、眠気のせいで覇気の弱まった目とか、欠伸をしたせいで少し潤んでる目とか、目に毒だから止めて欲しい。
そんなことを言っても、どうせ通じないのは目に見えているけど。
「ほら、それなら連れて行きなよ」
両手を伸ばしての催促。
幼く映るそれに苦笑してしまうのは致し方ないと思いたい。
こういう時は大抵寝惚けているのだから後で茶化しても怪訝な顔をされるだけなので胸中に留めておくしかないのが悔しいところ。
仕方なしに抱き上げてやれば、大人しく目を閉じるのだから此方の気にもなれと言ってやりたい。
言ったところで、人の悪い顔で笑われるのがオチだろうけど。
「…全く、襲われたいの?」
「殴られたいの?」
「…可愛くない」
「可愛さを求められてもね」
それでも、そう言いつつも大人しく腕の中に収まるアラウディは可愛いとしか言いようが無い。
ベッドルームの扉をどうやって開けようか思案するも、手立てはどう考えても一つしか無い。
渋々蹴り開ければ、音に僅かに眉を顰める。壊れてたら直せば良いだけだから特に気に留める必要は無くても、音の大きさだけはどうしようも無い。
案の定、じろりと薄藤色に睨まれた。睨むくらいなら手を伸ばして開ければ良いだろうに。
「ほら、もうベッドに着くから睨まないでよ」
「…睨んでない、眠いだけ」
「そういうことにしておいてあげる」
ベッドに降ろせば、緩慢な動作で隣を叩かれる。
その意味を計りかねると渋面を作って見せれば、鋭利な目に睨まれた。眠いのによくそんな目が出来るなんて感心してれば、強引にベッドに引き込まれてしまう。
これはもしかしなくとももしかして。
「…まさか、添い寝?」
「君が何もしない様に拘束しておくだけ」
「この状態の方が色々出来ると思うけど」
「…だから、こうする」
果たしてこれが睡眠直前の人間の力だろうか。いや、この人が人間離れしていることは承知だったけれどこれはどう考えても酷い。
骨が軋みそうな程のきつい拘束では流石に何も出来ないのは事実。
今の構図は端から見たら人間抱き枕なのだろうけど実際はそんな可愛い物じゃ無い。
そもそも、アラウディはこれを『拘束』と呼んだのだから抱き枕のつもりは到底ないのだろうけど。
「何かしたら怒るよ」
「はいはい、しないから」
「…ん、」
何かしでかしたとしても怒るだけで済ませようとしてるあたりが絆されてくれたのだと思っても良いだろうか。
其れを言えばまた眉を顰めるだろうから、やはりこれは心の内に留めておくしかないのだけれど。
是の返事だけで直ぐに寝入ってしまったアラウディを眺めて、小さく笑った。