寒いと言ったくらいで組み敷かれるなど誰が予測できるだろうか。
「…ねぇ、離しなよ」
「抵抗するの止めるなら離すけど」
「身の危険を感じて抵抗しないわけにはいかないだろう?」
「何処が身の危険?」
「君の存在が危険だ」
ぎちぎちと無遠慮にアラウディの手首を締め上げてくる雲雀を睨み付けても、楽しそうに笑うだけ。
アラウディは諦めるべきかと刹那考えるも、直ぐにその考えを打ち消した。
そうすれば目の前の男が喜ぶだけだということは、アラウディが一番よく知っている。
だからこそ抵抗する手は止めたくない。寧ろ止めることの方が馬鹿だろうとアラウディはきつく睨め上げた。
そんなアラウディを組み敷いた雲雀はきつい眼光に怯む事無く意図も容易く両手をソファへと縫い止めていた。
「寒いんでしょ?」
「それがどうしたって言うの」
「なら暖を取れば良いだけだろ」
だから、それがどうして今の状況になる。
口から零れかけた言葉を飲み込んで、アラウディは溜息をついた。
そう問えれば苦労はしないだろう。それに、簡単に腹の中を話す程、アラウディの上に乗った男は単純ではなくなった。
幼い頃ならまだしも、世間の荒波に揉まれた今ではアラウディの問いかけを利用してくることは明白。
だから何も言うまいとアラウディは睨み上げる事だけに留めていた。
「離せ」
「いや、と何回言えば分かるかな」
「じゃあ退け」
「それもいや。あんなお強請りされて、襲わない訳いかないだろ?」
「理屈が分からない」
不機嫌を露わに吐き捨てても、雲雀が楽しそうに口角を上げるだけだ。
今までそれぞれ押さえつけられていた手は一纏めに拘束され、骨が軋む。
けれど痛みが表面化される事は無い。
そんなアラウディを笑みを深めて見下ろすと、雲雀はトレンチコートの襟へと手を伸ばす。
アラウディが止める間もなくベルトを引き抜き、片手で器用にボタンを外していった。
制止の声は雲雀を止める力を持たない。
それくらいで止めるほど物わかりの良い人間ではないとアラウディも解っているのだろう。
睨め付ける視線は逸らさないまま、雲雀の隙をうかがっていた。
コートを剥ぎ、ベストだけでなくシャツまではだけられ本来ならば寒いだろうに、這い回る手のせいかあまり寒さは感じられない。
それを言えば思い通りだと言うように笑みを深めるだろうから、それをアラウディが口にする気は一切無かった。
代わりに、まだ自由な足で蹴ろうと試みれば逆に捕まえられて意志を持った手付きで内腿を撫で上げられる。
「ッ! 離せ!」
「聞き分け悪いね、あなた」
「君の手付きがあざといから嫌だ!」
「なら、言えば良いの?」
首を傾げる雲雀は実年齢よりも幼く見える。
二十歳もとうに過ぎたというのにそういった仕草は不思議と合う。
だからといって、アラウディがその仕草に絆される事は当然のことながら無い。
上体を倒し、アラウディの耳元に唇を寄せると触れるか触れないかの距離で雲雀が笑う。
「暖めるの、手伝ってあげるよ」
「…仕方ないから、手伝わせてあげる」
「それじゃあ期待に応えようか」
「とりあえず、此処じゃ寒い」
アラウディの言葉に雲雀は頷き、頬にキスを一つ落とすと手を引く。
それに対しアラウディも抵抗することもなく、立ち上がる。
「これで寒かったら承知しないよ」
「覚悟しててよ」
「君の本気なんてどれくらいだろうね?」
「…言ってくれるね」
話している内に寝室へと足を踏み入れる。
着いて早々、扉に押しつけてキスをした雲雀に対し、アラウディは挑発するように唇を舐めて見せた。
「ほら、みせてみなよ」
2012 10年後雲雀の日!