論争という名の愛情のような何か

時計を見遣る、手元を確認する、扉へ目を向ける、また時計を見遣る。
挙動不審としかとりようもない行動に自らのことであっても眉を寄せるのは致し方ないものだった。

今日来るようにそれとなく言ったものの、骸が姿を表す確率はかなり低いだろうと言う事くらい雲雀は理解していた。
元々二人共束縛を嫌う性質であるから、寧ろ骸が言葉通りに訪れることは無いだろう。
告げたときにかすかに眉を寄せたのを確認していた雲雀は、深い溜息を吐いて重い腰を上げる。
気になるからじゃない。約束を反故にするのが悪い。そう内心で呟くも、言い訳にしかなって居ない事に雲雀の眉間に皺が増える。
それでも止めてしまおうと思わないのは雲雀の律儀さ故。

「…見つけたら殴ろう」

この鬱憤を晴らすにはそれが手っ取り早い。
それに、骸は雲雀を打ち負かしたことがあるくらいだ。戦闘をしてしまえば雲雀が楽しめない訳がない。
骸は回避しようとするだろうけれど、それを封じる手はいくらでもある。
気配を消し、足音を殺して骸が居るであろう私室へと足を運べば、無防備にうたた寝をする骸が視界に入る。
寝ていたからこれなかった、そんな言い訳でもするのだろうか、頭の片隅に浮かんだ思考を振り払うように雲雀の腕はトンファーを振るう。
当然の様に空中から現れた三叉槍に遮られるも、雲雀は口元に笑みをかたどった。

「…ねぇ、何寝てるの」
「疲れているから、でしょう?」
「……ふぅん」
「おや、君が拗ねるんですか。わざわざ僕の部屋まで訪れたくらいですし、待ちきれませんでした?」
「咬み殺すよ」

雲雀の常套句に骸の笑みが深まる。
雲雀の言葉に今更怯む骸ではないし、雲雀もそれを承知だからこそ無遠慮に殺気をぶつける。
一種の信頼関係だろうと、いつぞのボスが口にしたこともあったがその直後の物騒な四つの瞳は今でもボスのトラウマだ。
兎も角、信頼などではないと異口同音で唱えたとしても二人に対して仲が良いなどとは言えたものではないのだ。

「それはそれは。それではお詫びは何がお望みで?」
「戦いなよ」
「クフフ、至極君らしい。待ちきれなかった君が、本来の目的を達したらお付き合いしましょうか」
「は?」

怪訝そうに眉を寄せる雲雀に対し、骸は笑みを浮かべたまま上体を起こす。
スペースの空いたソファに雲雀も腰掛けるように促すも、雲雀は対面のソファへと腰を下ろすことで抗議した。
そんな雲雀の態度をさして気に留めてないのか、膝の上で腕を組んで顎を乗せ雲雀の様子を観察しだす。
以前の雲雀ならば居心地が悪いと途端に機嫌を悪くしたものだが、最近ではめっきりそんな態度を取ることもない。
その一連の流れに骸の手元で隠れた笑みが更に深いものに変わる。
どちらにせよ、骸を楽しませているのだと雲雀が気付く事はまず無いだろう。

「君がどうして、僕に部屋に来るように言ったのか。それを実行すれば良いでしょう?」
「何を」
「分からないことを言うな、なんて言わないでくださいよ? そうだというのならば君は此処に来ないはずだ」
「………」

畳みかけるように口にすれば途端に押し黙る。
雲雀も口下手とまではいかないが、骸の饒舌には叶わない。
促すように雲雀の横に置かれた箱へと目線をやれば暫く押し黙っていた雲雀はあからさまに溜息を吐いて箱を骸へと差し出した。

「…あげる」
「クフフ、初めからそう素直にすれば良いものを」
「煩いよ、君」
「性分なもので。開けても?」

好きにしろという目線に笑みを返し、受け取った包みを丁寧に剥がす。
包装紙を取り去れば見慣れたチョコレートメーカーのロゴが刻印されたケースが現れ、骸の予想通りだと告げる。
雲雀が投げなかった時点で骸の中で粗方の予想は付いてはいるものの、それを表面に出すことはしない。
途端に機嫌を損ねることは想像に難くないのだ。いきなり戦闘にもつれ込む可能性は潰しておくに超した事は無い。

「…ありがとうございます、とでも言っておきましょうか」
「素直に言えないの」
「生憎と。君だってそうでしょう?」
「…煩い」

茶化すように声をかければ、身を乗り出した雲雀に強引に襟首を捕まれる。
そのまま噛み付くようにキスを仕掛けられて、骸は仕方ないと言うように小さく笑うと雲雀の後頭部へと手を回した。

「…っ、全く。おめでとう位言えないものですかね…」
「我が儘だね、君」
「おや、意地でも口にしないという事ですか。…まあ、君らしいですかね」

くつくつと喉を振るわせる骸に構わず、雲雀がまた強引に塞ぐ。
どちらともなくソファに倒れ込み、至近距離で睨み合うと唇が触れる距離で骸が笑った。

「…僕を満足させられたら戦ってあげますよ」
「忘れたとか言わないでよね」

夜はまだ長く、


2012/06/09 むくたん!

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